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シュガータイム 小川洋子 中公文庫

これは、初期の頃の長編なのだろうと思います。
異常な食欲にとりつかれた私の春から秋にかけてのお話。

小川洋子の作品をずっと読んでいると、弟が何度も出てきます。
その弟は、病気を持っていて、ひっそりとしていて、若くして亡くなっている場合が多いのです。今回の弟は、亡くなりはしませんが、大きくなれない病気を持っています。
それが、大きくなることを拒絶した「猫を抱いて象と泳ぐ」の主人公、リトル・アリョーシャンにかさなって、彼が登場したとたん、私は、もう泣きそうになってしまうのです。

この弟は、やはりひっそりとしていて、ゆっくりまばたきをする青年なのですが、その描写がとっても美しいのだな。
小川洋子の作品はどれも美しい。ひっそりとした中で、人物はみんな遠慮がちにうつむいているのです。
異常な食欲にとりつかれた主人公の食べたものをどれだけ並べても、食べているところを描写しても、がつがつ食べる主人公は見えない。淡々と静かに食べている姿が浮かぶのです。

これは青春小説なのだな、と思うけれど、
最後の親友との会話は、ちょっと説明っぽくて、よぶんだったなあと思います。
なんか、まとめてしまったという感じ。
ここだけが、う〜んというところで、
あとは、もうすっかり小川洋子の世界でした。

抜粋
 夜、身体を包む空気がゼリーのようにゆっくり固まり始める頃、眠りの小人が訪れて耳小骨のあたりをノックする。透明な音が心地よくわたしの中で響く。扉を開けると、そこは眠りの世界だ。ゼリー状の空気をぷるんと震わせて、わたしは扉の向こう側に落ちてゆく。
 その時、何か密やかな気配を感じることがある。赤ん坊のため息のような、砂時計のような、とても微かな気配だ。匂いも感触もないのに、わたしは確かにそれを感じることができる。一年に一度か二度、特別な春の夜の話だ。
 これは何だろう、と思いながら、どうしても眠りに落ちてゆく心地よさから抜け出せない。ゼリーはどんどん固まって、わたしを閉じ込めてゆく。あともう少し首を傾けたら、もう少し目を凝らしたら、その気配の形を確かめられそうな微妙な所で、わたしは夜の底に吸い込まれてしまう。
 特別な春の夜を過した次の日、必ず桜が咲く。そして昨夜感じたのは桜が咲く気配だったんだ、と気付く。何かの拍子に蕾がぷつんと弾け、きれいに畳み込まれた花びらが一枚一枚広がってゆく気配が、眠りの世界に紛れ込んでいたことに気付くのだ。
 こんなふうにして、今年も桜が咲いた。

 航平と一緒に街に出ると、世の中にはどれだけ残酷な人間が多いか思い知らされる。物珍しそうな、気味悪そうな目で観られることはしばしばだった。航平はそんな残酷な視線を、ゆっくりまばたきをしながら真綿のように吸い取ってゆく。そんな時、航平の瞳がほんの一瞬薄い水色に染まることを知っているのは、たぶんわたしだけだろう。

(あとがきから)
 どんなことがあってもこれだけは、物語にして残しておきたいと願うような何かを、誰でも1つくらいは持っている。それはあまりにも奥深いものである場合が多いので、書き手は臆病になり、いざとなるとどこから手をつけていいのか分からなくなる。そして結局長い時間、それは心の隅に押しやられたままになっていたりする。





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モリヤ * あ行 * 08:35 * comments(0) * trackbacks(1)

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